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第1回 絆のアリルクリエイターズインタビュー “CG編”

第1回 CG編

『絆のアリル』スタッフ陣による座談会企画。第1回のテーマはCG。キャラクターのCGやMV映像など、制作を手掛けた方々にお話をうかがいました。

<参加者>

駒屋健一郎(監督)

佐々木涼(CG監督/MV演出/CGレイアウトアニメーションスーパーバイザー)

大森清一郎(CGアートディレクター)

小森俊輔(アセットスーパーバイザー)

駒屋

キャラクターのCGや楽曲のMV(ライブシーン)に関しては、基本的には佐々木さんたちにほぼお任せで作っていただきました。もちろん、どういうキャラクターなのかの説明はしましたが、こちらでコンテを切ってお渡しすることはなく、画面の構成も含めて作っていただいています。佐々木さんのインスピレーションや感性で出来上がったものが本当に良かったので、言うことはほとんどなかったですね。

本編のおまけコーナーは自分もモーションキャプチャーの現場にいて、リクエストを言うことはありました。でも、そのぐらいですね。なので、今回は佐々木さんや大森さん、小森さんにお話を伺えればと思います。

佐々木

わかりました。

大森

佐々木さんは現実の世界では起こり得ない雰囲気やデザインといった、なにか“ワンアイディア”を入れたいとおっしゃっていましたよね。例えば、ライブステージを作る場合でも、現実にはあり得ないような光の球やプリミティブな三角のオブジェクトが浮いていたり、ホログラムが浮かんでいたり。

佐々木

要するに、バーチャルの世界だとわかるようにしたかったんです。では、具体的なMVについて説明していきます。

小森

僕はMVの前段階でのキャラクターのCGを担当していて、ライブのイメージや世界観の構築は佐々木さんと大森さんの2人がしていますので、MVに関してはおふたりにお任せします。

ミラク「Link to heart」

佐々木

わかりやすい曲からいくと、ミラクの「Link to heart」は、とにかくミラクを可愛く見せたいと思いました。アニメーターの方にも終始それを言っていて、極端に言えば「ぶりっ子アイドル」がキーワードです。大森と「可愛いとか、ぶりっ子ってなんだろうね?」と話をしていて。風船を飛ばしたいと思ったときも、Francfrancさん(インテリアや雑貨の販売店)のような、シャイニーなピンクの風船にしようとか。そうやって、ひとつのキーワードをもとに、色や質感、キャラクターの演技を決めていきました。これはどのユニットも一貫して、そういう形で決めています。

MVに出てくる迷路は、『不思議の国のアリス』をイメージしていて。小さくなってしまうのもそうですね。そういう感じに、曲を聴いて、難しく考えずにシンプルなワンワードを決め、僕と大森とでそこからイメージを膨らませていきました。そして、キャラクターや背景の各リーダーにイメージを伝えて具現化していく、というのが制作の流れになります。

花火もすごく大変でしたが、このMVはキャラクターが1人なので場面の豪華さを作るために頑張りました。個人的にミラクのMVは結構気に入っていて。あざといぐらい可愛くできたと思うし、色合いやエフェクトも綺麗にできたと思います。

大森

佐々木さんからキーワードをいただき、2人で直接会って『不思議の国のアリス』だったら、「テーマパークのお城とかイメージに合うんじゃないか」「迷路の奥に城があったらどうだろう」などとキャッチボールをしながら、現実的な工数も考えて、僕が1枚の絵に起こすんです。迷路の場合は、3Dモデルにしたときに草がどう見えるのかといった細かなことも含めて絵を起こしていて。

佐々木

イメージボードを見てもらうとわかりますが、この時点で、皆さんが見ている映像そのまんまなんですよ。

大森

そうですね。そうやって僕が起こした絵をモデラーの方にお渡しして、すごく美しい3Dにしていただきました。

佐々木

よく見るとシンデレラ城のようなお城が、ホログラムみたいに浮かんでいますよね。実際に3Dを作る人が困らないように、こういった感じで大森がかなり詳細に表現しているんです。シャイニーな風船もそうですし、フォトリアルな感じにテーブルの上でアニメのキャラが演技しているとか、イメージボードの時点でリアルな質感がわかるようになっています。

大森

このMVシーンのイメージボードは手描きのイラストですが、ライブシーンはフォトショップなども組み合わせて作ったイメージを、3Dとしてうまいこと落とし込んでいただいていますね。

VICONIC「Ready Go」

佐々木

それと真逆ですごく格好良くて印象的だったのが、VICONICのMVです。キーワードは「デビル」。Netflixで配信されている『DEVILMAN crybaby』が好きだったので、そういったところからもインスピレーションを受けています。

イメージボードでもわかるように、現実ではありえない緑色の炎の松明が並んでいる空間で演技していて、各楽曲やアーティストのテーマカラーも意識して作っています。このアーティストはこの色、みたいな感じで全てのユニットで用意しました。

大森

そうですね。

佐々木

特徴的なところとしては、VICONICの衣装には尻尾がついています。ダンスは荒木結花さんが率いるモーションキャプチャーチームの中でも、荒木さん本人とベテランの方が踊ってくれて、クオリティが高かったんですよ。衣装の尻尾の動きとダンスがマッチしているので、そこも見てもらいたいです。僕は詳しくないですが、ケモナーと呼ばれる方たちがいるらしいので、その方たちにも刺さってくれたらいいなと思っています(笑)。

BRT5「アスノヒカリ」

佐々木

BRT5は人数が多くて衣装に統一感があり、曲は爽やかだったので、わかりやすいアイドルグループのイメージがまずありました。なので、スポーツドリンクのCMのような、爽やかで疾走感のある感じにしたいなと。色は綺麗なブルーにしたくて、空は青空、地面はウユニ塩湖のようなイメージです。現実では水の上に人は立てないですけどバーチャルなら立てるので、そこにバーチャルの非現実的なところを入れています。水中で歌っているシーンは、足元の水の下、という設定ですね。

さらに、これはどの曲にも一律で入っているのですが、音の波形を使ってエフェクトを動かしていて。この曲だったら、光の柱が音の波形を拾って動いています。

制作過程においては、CGアニメーションの制作が始まる前から、よりイメージを伝えるために動画を作っていたものもあって。3Dの制作する人はプリミティブって言葉をよく使うのですが、そういうシンプルなものも使いながらVRとかバーチャルなものを表現していったのが、BRT5のMVです。

3DM8「Remortework」

佐々木

3DM8は女の子3人組で、ラップを歌うヒップホップ系のすごく格好いいアーティストだったので、クラブのイメージです。近未来チックで、暗くてネオンが輝いていて。具体名をあげると映画『ブレイド』でヴァンパイアがたむろしているクラブをイメージしました。ダンスシーンは、キャラクターが動くと手の先に光の軌跡が見えるような感じになっていて、これもCMをイメージして作っています。

大森

ダンスしている絵は、ダンサーの動きに僕がエフェクトをのせています。

PathTLive「SHININGi」

佐々木

ファーストシーズンのMVの話もすると、PathTLiveの1曲目「SHININGi」は各メンバーの頭文字を立体化したものが浮遊していて、そこに乗って歌っています。PathTLiveはそれぞれテーマ色があり、その色が必ず入るようにしようと話していました。

制作時はまだメンバーの3Dモデルがなかったので、キズナアイを使っていたんです。そして、各メンバーの部屋を作り、メインのライブ会場で揃ってライブをやる構成になっていて。ライブ会場に関しては、あまり難しいことを考えずに思いっきりやってみようと作ったMVです。

大森

正統派なバーチャルライブを表現しようと話しましたね。

佐々木

正統派でめっちゃ豪華なものを。いったん予算のことは置いといて、このMVはフル尺だったので、ガチのライブを作ってみようと。

そして、このタイミングで、先ほど言った音の波形を使っていろいろやってみようと思ったんです。MVを見てもらうとわかるように、線が音の波形になっています。そういう意味では、実験的なところもあるMVですね。

最終話のMV

佐々木

最終話にもMVが出てきます。どういう内容かは実際に見てもらいたいですが、こちらはあのSF映画のようなイメージになっています。そして、荒木結花さんのダンスチームは、今回もすごく良くて。これまでとはちょっと違うこともしているんです。

ダンスを使わずに自分たちが作ったオリジナルのアニメーションを中心にやっていた部分も多々ありましたので、最後のライブシーンはダンスチームが歌詞やメロディから考えてくれた振り付けをもとに作っています。衣装も小森さんが変えていましたよね?

小森

そうですね。最後は衣装を変えたいよね、という話を佐々木さんにいただき、監督からもOKをいただいたので、キズナアイのイメージを踏襲したデザインを起こしました。形状自体はもともとの衣装をベースにしていますが、カラーリングは原点回帰のような形でキズナアイのアニメバージョンの色合いを取り入れています。最初のアイちゃんのMVでのリフレクション感といった要素も取り入れていますので、衣装にも注目してもらいたいです。

キャラクターのCGモデリング

小森

キャラクターのCGに関して説明すると、コンセプトとしては、やはりキズナアイの存在があって、そこからの派生として今回の『絆のアリル』があります。なので、キズナアイの意志を引き継いだ子たちの物語を作るにあたり、3Dモデルも当時のActiv8株式会社、そしてKA Inc.(Kizuna AI株式会社)が目指していたものを踏襲したい旨は最初に伝えていました。

背景とマッチしてそこにいるかのようなバーチャルアーティスト、従来のアニメのCGとは違う方向性のものを作りたいよね、とも話していて。その上で、KA Inc.的にこだわりのポイントとして、ライブなどでは演出として光が後ろからあたることも多いので、そこですごく映えるようなビジュアルを目指しました。最初のキズナアイのライブ映像が顕著だと思いますが、ドレスや髪の毛とかがふわっと光って綺麗に見える表現をやりたいよねと。それを佐々木さんに伝え、さらに監督や委員会の方々にも確認したところ、監督がすごく寛大に大丈夫だとおっしゃってくださいました。

駒屋

そうでしたね。

小森

キャラクターは森倉円さんとAsunaさんの2人が原案を描かれていますが、3Dモデルにする際は、どちらかの方向性に合わせようとなりました。もともとキズナアイ自体も森倉さんのテイストに合わせるようにモデルを作っていましたから、基本的には全キャラそこに近づけるようにテイストを統一しています。

動きに関しても、アニメではいわゆる“コマ落ち”といって、コマ数を減らしてダイナミックな動きを見せる手法があるのですが、それは使っていません。VTuberの場合はリアルタイムで処理をしていますから、それを映像業界の人間が正統進化させたらどうなるか。そこから逆算して考えました。VTuberのコンテンツだとモーションブラーが入るとか、3Dの技法も結構踏襲しているので、我々もそこは踏襲しています。

あと、アニメでよくある誇張表現、例えば手前に来た手などを実際よりも大きく描画することによって遠近感を出すことがありますけど、それも基本的にやっていません。あくまでVTuberのライブをよりリッチして、キズナアイとしてこういう表現したいんだということを盛り込んでもらいました。

駒屋

デザインに関しては、最初に小森さんに見せていただいたときに、自分がこれまで目にしていたものよりもこだわって作られていると感じて、これが本当にテレビアニメでできるのか……? とビックリしたんです。ここからもっとすごくなる可能性も含めて、アニメの作画も負けていられないな、なにかに活かせられないかな、と刺激をたくさん受けました。

小森

それから、当初からアニメ以外にXRコンテンツの横展開が当初から視野に入っていましたから、3Dモデルはアニメと頭身やバランスが異なっています。ネットのコメントで「化粧をバリバリしている」とか「メイクが濃い」といった声もありますが、ライブシーンの3Dモデルはそこを反映しているので、メイク強めになっています。

ほかにも、佐々木さんと話し合ったことのひとつとして、「口パクをしっかりしたい」ということがあります。VTuberの延長線ですから、やっぱり口パクをしっかりして、なにを歌っているのかわかるような表現にしたい。それを大前提として、歌ってもらったときの表情をベースに各キャラクターに落とし込んでいます。

佐々木

そうですね。歌うときって、感情がこもるとなにげなく首を傾げるとかあるじゃないですか。人はそういった所作でリアリティを感じると思いますが、モーションキャプチャーだと踊ってはいても本気で歌ってはいないじゃないですか。なので、音楽活動をしている知り合いの女性アーティストに歌ってもらった自然な瞬間を参考にして、ダンスと融合させました。この歌詞のときはカメラを見るのではなく目を伏せるとか、そういったキャラクターのリアルさを出すことで、この子たちが実際に生きていて、ちゃんと考えて歌っているんだと。全キャラでそれを目指そうと思いました。

小森

個別のキャラをそうしたのではなく、みんな均等に同じように手をかけましたね。

佐々木

ただ、どうしても主人公のミラクをフィーチャーしたカメラワークになるときが多いですから、そこで可愛く見えるようにしたくて。PathTLiveの5人だったらミラクに一番時間を割いたと思います。それに、アニメーターによって「この子が好き」といったものが出てしまうことも多少あるんですよ。この子のときだけやたらアニメーションがいいなとか(笑)。

それぞれの注目ポイント

小森

やっぱり、いま話にあがったキャラクターの表情は見て欲しいですね。歌っている最中に、本当にみんな絶妙な表情で、目配せとか細かな所作をしていますので。一度見たあと、改めてちゃんとみると、ここでこんな表情をしていたんだ! といった発見があって、よりエモく感じていただけると思います。

大森

MVはひとつフォーマットを決めて(キャラクターなどを)差し替えて作るのではなく、曲ごとに毎回0から実験的なことをやったので、ちゃんと曲に合ったイメージができていると思います。温めていたものを披露したり、自分の得意なデザインを持ってきたりと、楽しみながらやらせていただいたので、ぜひ何度も見てもらいたいですね。似たようなものはあまりなく、曲ごとに新しい世界になっていますから。

佐々木

この作品は、駒屋さんが「好きにやっていいよ」と任せてくれたから実現できたと思っています。逆に、そう言われたからこその責任が僕らにありました。普段なら、「ここは使い回しでいいよね」と判断せざるを得ない状況や作品もあると思うんです。でも、『絆のアリル』で僕らが作ったMVに関しては、使いまわした部分があったのか思い出せないぐらい、全部新作というか、曲ごとに全然世界観が違います。小さな子供にも、CGクリエイターを志す学生にも、本当に多くの人に見てもらいたいです。

それもすべて、大森さんも小森さんもそうですが、この業界にはいって20年弱の自分にとってのオールスターズで作れたことが大きいと思っています。

大森

本当にそうですね。わざと情報量を減らしてシンプルにまとめたデザインにしたとしても、佐々木さんを含めたこのスタッフなら大丈夫だろうと思ってやったところがありましたから。

佐々木

予算、スケジュールなどいろいろ要素はありますが、やっぱり重要なのは人だと思います。一緒に仕事したい人と仕事ができて、駒屋さんとも出会えて、信頼してもらえて、振り返ってみてもすごく幸せな仕事だったなと思います。声をかけていただいて感謝しています。

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