第2回 絆のアリルクリエイターズインタビュー “音楽編”
第2回 音楽について
『絆のアリル』スタッフ陣による座談会企画。第2回のテーマは音楽。アニメを彩る楽曲からアリルズプロジェクトのことまで、制作秘話を語っていただきました。
<参加者>
駒屋健一郎(監督)
赤尾でこ(シリーズ構成)
中島直人(プロデューサー)
吉田奏介(Alleles プロデューサー)
『絆のアリル』の楽曲
中島
『絆のアリル』はソロ曲だけでなくユニットで歌っていたり、グループを超えたキャラクター同士で組んで配信したりしています。テーマとしては、多彩な音楽、ユニットの楽曲を作っていこうと思っていました。
その中で、シナリオに応じてこのキャラ同士を歌わせたら面白いよね、と駒屋監督や赤尾さんたちとシナリオ会議の中で積み上げていきましたので、改めてそのあたりをお伺いできたらと思います。
赤尾
わかりました。シリーズ構成を考える上では、全体で何曲作ることができるのか、何話に1回ぐらい新曲を使えるのか、といったことを気にしていたのですが、ありがたいことに最初に聞いていたよりも多くの楽曲を作れることになったんです。これって珍しいんですよ。予算の都合もありますから、最初に聞いていたよりも減ることはよくあって……。
でも、『絆のアリル』はたくさん作って大丈夫という素敵な展開になりましたので、物語的に誰と誰を組み合わせたら面白いかを駒屋監督と相談しながら、結構自由に「ここで新曲」などと書いて、楽曲自体は作詞家さんや作曲家さんにお任せ、という形ですね。
駒屋
音楽プロデューサーと細かく楽曲の打ち合わせをしたというよりも、基本的にはシナリオを読んでいただいて、そこからイメージして作っていただきました。物語は最初から2期へと続く展開を考えていたので、どういうキャラが登場して、どういう楽曲がいいのかは、シナリオをじっくり読んで汲み取ってくださったのかなと思います。
実は、シナリオ会議の段階では、メンバーに出身の設定があって、その出身に即したの音楽のイメージもあったんです。途中から具体的な出身の設定はなくなりましたが、できあがった楽曲はその名残もある雰囲気になっていたので、なんとなくシナリオに浸透していたものが伝わったのかもしれないです。
赤尾
そうですね。
駒屋
それに、この作品は“キズナアイ”というすでに存在するキャラクターから端を発していますから、「繋がりたい」といったキーワードがあります。主人公であるミラクの成長を描きながら、曲としてのさまざまな表現を通して、「繋がりたいってなんだろう?」といったことや「絆」を表現してくださいました。
「SHININGi」
歌唱:PathTLive
作詞:和田アヤナ 作曲:岩見直明 編曲:津波幸平
中島
ファーストシーズンでは、やはり「SHININGi」の印象が強いですよね。
赤尾
この曲は、シナリオを考えていく途中で駒屋監督が「こういうイメージなんだよね」と最後に全員の歌詞を合わせるアイディアを出してくださったんです。そこが着地点なのかと納得して、シナリオを作っていきました。
当初は、単純にそれぞれのオリジナル曲があって、最後にPathTLive全員で気持ちをひとつにして歌うといった王道の感じだったのですが、そのアイディアをいただいてから、ミラクだったら歌詞にミラクのことばかりを入れて、全員が一緒に歌うときにひとつの歌詞になったらいいよね、となりました。作詞家さんへの無茶振りではありますが、そうやってお話を作っていこうと。
駒屋
曲数をたくさん使った方が視聴者は楽しいかな……? とも思いましたけど、「繋がり」を表現するにあたっては、別々で歌っていたものがひとつになるのは、すごくしっくりきたんです。本読み(シナリオ会議)で話したら賛同いただけたので、これでいくことになりました。作詞家さんには大変な思いをさせてしまいましたが、各キャラクターをイメージした曲を5曲書いてもらい、その歌詞がひとつになって第12話で歌うという、いい形になったと思います。
中島
まとまりがあってすごくいい着地点だなと思いました。でも、監督もおっしゃっていたように、作詞家さんは本当に苦労されていて。最終的に5人で歌う曲がまずあって、各キャラクターに散りばめられていたフレーズを混ぜ込んで、と2段階でできている割と珍しい形ですよね。うまく意味が繋がるか、ちゃんとそのキャラクターの持ち味を出せているのか、そのキャラが歌っているパートにその歌詞がハマるのか……と苦労されていた記憶があります。
吉田
僕も、それぞれの楽曲はひとつひとつ完結していて、それを聴き比べた先に「SHININGi」を聴くとすごくカタルシスがあるというか、いいなって思いましたね。アリルズの方でもオリジナル曲を出していますが、ファーストシーズンはやっぱり「SHININGi」が核になっていると感じたので、「SHININGi」のアンサーソングになればいいなと思って「Be ”i”」を作りました。アリルズ自体がこの曲の影響をかなり受けているなと感じています。
ファーストシーズンオープニングテーマ
「mirAI wave!」
歌唱:PathTLive 作詞:辻純更 作曲・編曲:藤原彩豊
中島
ファーストシーズンのオープニングテーマは、最初は今の曲ではなく、幻のオープニングがありました。楽曲制作チームと結構ギリギリまで制作していて、皆さんにわがままを言わせていただきました。監督や赤尾さんには、絶対にいい曲に仕上げるのでこちらに任せてくださいと言って作った曲でもあります。
駒屋
そうですね。
中島
楽曲制作チームにはソニー・ミュージックさんに協力いただきまして、ガッツリとお力添えをいただきました。特に「mirAI wave!」は、シナリオを読みながら曲自体が最初のデモからすごく変わっていったんです。「この歌詞を入れたいよね」「この曲調を入れたい」などとギリギリまで調整してもらいまして、最後の2週間ぐらいはクリエイターさんに細かい部分のブラッシュアップに没頭していただきました。
アニメーション制作のWIT STUDIOさんからも「オープニング映像を作りたいので早く曲ををください」と言われていたのですけど、もうちょっと待ったらいいものができるから待って欲しいとお願いして待っていただけたんです。本当に嬉しかったですね。この曲とキズナアイが歌う「LINX」は、特にクリエイター側からの強い思いも受けて制作した楽曲ですね。
赤尾
「mirAI wave!」は私も印象的でした。挿入歌はいち視聴者として、毎週毎週「うわっ! すごい!」と思いながら見ていますが、「mirAI wave!」は曲が始まって青空の映像からバンとタイトルが出るじゃないですか。これだよ、こういうのが見たかったんだ! と第1話のオンエアを見たときに感じて。その印象がやっぱり強いです。
中島
そして、エンディングテーマの「寄花-Yosuga-」はこの作品っぽいですよね。普通のアーティストを使わないというコンセプトで、作品のバーチャル感を表すために、そちらに秀でた方として#kzn(歌唱特化型AI)さんに担当していただきました。作品的に「なりたい自分になる」「なにかに挑戦する」といったところを体現できている枠組みだったんじゃないかなと思います。
セカンドシーズンの楽曲
赤尾
セカンドシーズンは「この子とこの子が喧嘩をして仲直りするお話なので、こういう曲を2人に歌わせたい」とか「ライバルだった2人が近づくのでデュエットさせたい」とか、本当にシナリオありきで、ここで曲を使って大丈夫か許可をいただきつつ考えていきました。
シナリオが完成するまで待ってもらうことができるのか不安もありましたが、キャラクターが増えたこともあって好き勝手やらせてもらった感じでしたね。ソロ曲じゃない場合は作る難しさがあったでしょうけど、物語の中からできた曲であることはブレずにいけたと思います。
駒屋
ほかがみんな2人で歌っているのに、ノエルだけソロ曲なんですよね。第1回のインタビューでノエルにこだわったと話しましたが、この曲に関してもこんな感じにできないかと相談させてもらいました。
最初にあがってきた曲は明るめの曲だったんですよ。家族に向けての曲ですから、もうちょっとしっとりした感じや切なさがあった方がいいなと思って修正をお願いしたら、ものすごくいいものをいただけました。苦労はかけましたが、結果的に良かったなと思います。
中島
当時のメールを確認したら、監督は家族の思いについて、熱いメールを書かれていましたね(笑)。
駒屋
ほかのユニットも大好きですけど、ちょっと違うこだわりがノエルのお話や楽曲には出たかもしれないです。
赤尾
でも、シナリオを書いているときに想像力が足りなかったなと思うぐらい、そのほかの楽曲もみんなオシャレで。それに、ばんばんあがってくる楽曲を聴くと、いまの世の中は「Aメロ・Bメロ・サビ」って単純に作られていないんだと、改めて感じましたね(笑)。
セカンドシーズンの楽曲は、あがってくるたびにメロディに衝撃を受けていたので、そこにキャラクターの思いや物語に関する言葉をどうのせていくのか興味津々でしたし、「キャストの皆さんがこの曲を歌えるんだ! すごいな!」とも思いました。
中島
詳細はぜひご覧になっていただきたいですが、最終話に出てくる楽曲とその映像もぜひ注目してもらいたいです。締めくくりの集大成として格好いい方向でいくのか、可愛い方向でいくのか、方向性から議論しました。いろいろなデモの中から選ませていただいたので思い入れがありますし、CGチームもものすごいものを最後に作ってくださいました。たしか、予定よりも数ヶ月ぐらい遅れてましたよね?
駒屋
そうですね。最終的にすごくいいものが出来上がったんですけど、こだわりすぎちゃったかなと(笑)。
中島
なので、プロデューサーとしてはスケジュール的な意味でもドキドキしました。あと、キャストの話では、レコーディングでこだわりを持たれていた方も多くて、「自分はこれができるからやらせて欲しい」とか「もうワンパターン録らせて欲しい」とかおっしゃっていたんですよ。「喉の調子が悪いから、もう1日録らせて欲しい」と言ってきた人もいました。周りからすると全然いける感じでしたけど、そこは本人のこだわりなんでしょうね。そのぐらい一言一言に対してすごくこだわりを持った人たちに、歌を吹き込んでいただけたのも思い出のひとつです。
吉田
それでいうと、アリルズのレコーディングも本当に突き詰めてやるんですよ。時間はかかりますけど、絶対に納得するまでやめないというか。この作品はもともと声優をやられていた方もいれば、シンガーソングライターとして音楽活動をやられていた方もいて。歌のレベルの高さはアリルズの活動でもすごく感じますね。
「Dive into “i”」
歌唱:Alleles Project
作詞・作曲・編曲:藤井健太郎
吉田
アリルズのことでいうと、先ほど話に出た「mirAI wave!」はすごく記憶に残っています。メンバーにはめちゃくちゃ踊れるキャストさんもいましたが、まだ踊った経験がないキャストさんも結構いて、最初の頃は毎週スタジオに入って練習していたんです。本当に何回も何回も練習をして、スタッフも耳がタコになるぐらいこの曲を聴きながら、彼女たちが練習する姿を見ていました。そういう意味でも、この曲はアリルズにとっても大切な1曲ですね。
中島
アリルズの楽曲だと、たしか本編の挿入歌と同じ時期にレコーディングしたと思ますが、初めて15人で歌った「Dive into “i”」が印象に残っていますね。15人の歌声が重なるとこうなるんだと、自分の想像を超えていて、かなり贅沢な曲になったなと思いました。
吉田
この活動を通して僕らは何を伝えたいんだろう? それをしっかり持ってやっていきたいと思ったときに、まさに「Dive into “i”」はその答えだよね、とキャストさんとも話していました。
バーチャル世界にダイブした先にあるもう1人の自分と出会う――曲の中でも描かれているのですが、まさにアリルズがそうだなって。普通のVTuberとアリルズが違うのは、アニメ連動プロジェクトとして、キャストさんがもう世の中に出ている状態でやっている、ということなんです。普通はそういうことは珍しいので、アリルズはアリルズのバーチャルを定義する必要がありました。「キャラクターを演じるってなんだろう?」と思ったときの答えが「もう1人の自分に出会う」ことだと、この曲が教えてくれたと思っています。
リアルではおとなしめのキャストさんが、バーチャル世界に入った瞬間、すごく陽気になったり全然違うキャラクターになったりするんです。それって、キャストさん目線だとキャラクターに引き上げられているというか、キャラクターに引っ張られて自分の表現の幅が広がっていると思っていて。「Dive into “i”」はこのプロジェクトがそういう方向性でやっていくことを示した曲でもあります。
セカンドシーズンオープニングテーマ
「Perfect World!!」
歌唱:PathTLive
作詞:Eri Osanai 作曲:YUU for YOU、小久保祐希 編曲:YUU for YOU
中島
「Perfect World!!」は、主題歌を担当した音楽プロデューサーがこの曲で行きたいんだろうなという想いが伝わってきてました。
どういうコンセプトなのか聞いたら、第1期よりも元気にしたいとおっしゃっていて。セカンドシーズンはPathTLiveが結成されたあとの話で、これから対バンというか、ほかのユニットメンバーとも向き合っていく中で、PathTLiveらしさを表現しながら、ファーストシーズンよりも明るくテンポのいい曲を作りたかったのだと思います。
駒屋
曲を聴いたとき、「mirAI wave!」は「mirAI wave!」で始まりの曲としてファーストシーズンのオープニングにふさわしかったですが、「Perfect World!!」は歌詞も曲調も本当にセカンドシーズンにちょうどいいと感じました。それに、そんなことはないかもしれないですが、「mirAI wave!」よりも「Perfect World!!」はキズナアイ感があると思ったんです。キズナアイ感がなにかは説明が難しいですけど……。
吉田
めちゃくちゃわかります。アイちゃんは、「自分の想像力や思いがあれば、このバーチャル世界では何にでもなれるんだよ!」と言い続けていたなと思っていて。そういったエッセンスは「Perfect World!!」を初めて聴いた時に感じました。
赤尾
私は、「Perfect World!!」の方が、自分のフィールドを持っている状態の子たちが歌うにふさわしい曲だなと感じましたね。歌詞もあまりふわふわしていない強い言葉が多く、PathTLiveとして繋がれる子たちができた、揺るぎない自信を持っている子たちにすごく似合う曲だなって。
中島
一方で、エンディングは大きく変えずに、よりキャッチーなものを作りましょうということで、「じゃんけんほい!」はすごく耳に残ることを意識して作っていただきました。そのほか、特に印象的なのをあげるなら、3DM8の曲とかでしょうか?
駒屋
3DM8の「Remortework」は物語的に「それぞれの個性が光る曲」ですから、それぞれのいいところを前面に押し出す感じがいいですよね。でも、個人的にはVICONICの「Ready Go」の印象も強いです。VICONICはシンクロ率、ジュアとセアがすごく仲良しで息がピッタリじゃないですか。なので、レコーディングにも立ち会わせていただいて、こういう内容なので2人の息を合わせたいと説明させていただきました。音楽プロデューサーからも細かく指示を出していただいたおかげで、完成した曲はシンクロ率が完璧で、すごくいい感じになったと思います。
それに、PathTLiveもBRT5も3DM8もミュージックビデオのようなイメージシーンがありますけど、VICONICは「この曲はイメージシーンを入れないで、2人が踊っているのだけで大丈夫だ」と、本当に歌と踊りだけで全部構成を作ったんです。それがまたすごかったなと思って。ほかがミュージックビデオを見ている感じなのに対して、VICONICはライブを見ているように感じました。見せ方によって印象が変わったと思えた曲ですね。
中島
『絆のアリル』には本当にたくさんの曲がありますから、皆さんの琴線にふれる好きな曲や、このキャラクターの歌声、このフレーズが好き、といったものがあると思います。作品とリンクしているのは大きな特徴ですが、本編と関係なく聴いていただいても、すごくいい曲が多いですし、その裏ではたくさんのスタッフが思いを重ね合わせて作っています。本編を通してでも、本編には出てこないアリルズの曲でも、皆さんの1曲を探してもらいたいですね。
駒屋
そうですね。先ほど話したPathTLive、VICONIC、BRT5、3DM8は曲も映像もすごいですけど、セカンドシーズンで流れるコラボ曲もぜひ聴いてもらいたいです。こちらはVTuberというかライブ感をより出したいなと思って、観客が映るような表現は一切なしにしました。歌に集中して欲しかったですし、振付師の方がすごくいい感じにつけてくれて。モーションキャプチャーで撮っているのですが、表情も含めて動きが可愛くできあがっていて、踊りも歌詞と上手くリンクしているので、そういったところも感じてもらえたら嬉しいです。
赤尾
本当にすごいですよね。私だけなのかもしれないけど、1回見ただけでは情報を処理できないことがいっぱい起こっているので、オンエアだけでなく、公式でアップしてくださっている映像とかもたくさん見て欲しいなと思います。
吉田
僕は、歌っているキャストさんに注目して楽しんでいただくのもいいと思うんです。先ほども話したように、いろいろな出自の人がいるのがやっぱり面白いと思っていて。アイドルをやっていて声優にチャレンジしている人、シンガーソングライターをされている人、インターネットで歌い手として活動されている人……そういう人たちが、普段の活動とは違うチャレンジしていると、よく話していたんですね。普段の活動からさらに幅が広がるというか、1人1人がすごい思いや努力で楽曲に臨んでいる背景も含めて楽しんでいただけたら、また違った見え方があると思います。アリルズは絶賛活動していますので、応援よろしくお願いします。