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第3回 絆のアリルクリエイターズインタビュー “プロット・設定編”

第3回 キャラクターの設計から彼女たちが生まれるまで (プロット、設定)

『絆のアリル』スタッフ陣による座談会企画。第3回はPathTLiveの5人がどのようにして誕生したのか、制作する上でのこだわりや苦労なども合わせて語っていただいた。

<参加者>

駒屋健一郎(監督)

赤尾でこ(シリーズ構成)

森倉円(キャラクター原案)

駒屋

PathTLiveの5人の誕生について、とのことですが、実は自分がお話をいただいた時点で「こういう女の子です」というキャラクターのデザインはなんとなくありまして。自分はそこから育てていった側というか、この子はこういうお話にしましょう、と考えていったんです。0から生み出したのは主に森倉さんや赤尾さんですので、おふたりがどういう思いでデザインして、キャラ付けしていったのかをお伺い出来たら嬉しいですね。

赤尾

スタートから話しますと、企画自体は2018年頃には始まっていました。そして、2019年の春頃からアイディアがまとまり始め詳細な企画を作り始めたと思います。

森倉

そうですね。私は企画書をもらってからPathTLiveの5人のビジュアルを作りました。

赤尾

細かな性格などは、2020年の年末に詰めていった感じです。

森倉

ただ、「キズナアイちゃんとは別の枠組みとして“ユニット”を作りたい」「共演することはあるかもしれない」といったお話は伺っていて。ダンスをやらせたいとか、もう少し頭身に変化を加えたい、といった話がありましたので、それに適したビジュアルを考えて詰めていく感じでした。企画書や発注書に書かれていたPathTLiveの5人の役割は今と違和感がないので、脚本をそのように作ってくださったのかなと思います。

赤尾 確かに、(最初に考えた時点で)それぞれの役割を持たせていて、そこから大きく変わってはいないです。

森倉

まず、ミラクは“主人公”という役割ですね。アイちゃんと一緒に活動するわけではないですが、絵的な意味でいえば、ミラクの位置にアイちゃんが来ても違和感がないようなイメージで作りました。ある意味、アイちゃんと似通っているというか、素直な主人公タイプであることは変えずに、見た目は全然違う感じにしたかったんです。ほかの4人はアイちゃんと被らないようにと考えていたので、身長などの収まり感も2人(キズナアイとミラク)は似ているかなと思います。

赤尾

私はもともと、あまり色がついていなくて、周りの子たちに影響を受けて成長していく主人公が好きなので、大雑把にいえばミラクもそういうふうに設定しました。それを基準にして、ほかの子たちがミラクにどういう影響を与えるのかを考えていった感じですね。メンバー全員にまず王道の性格をつけて、例えばクリスは過去になにがあってこうなったのか……などと、どんどん肉付けしていきました。

森倉

それを聞くと、私は赤尾さんと趣味が似ているなと思います。私も主人公はそうやって成長していくタイプが一番魅力的だと思っているので、最初の段階ではあまり固めたくなかったんですよね。基本はナチュラルだけど、格好いい子と一緒にいても似合うし、緩い子といても似合う子。こう! とイメージをつけずに、どっちにもいける雰囲気にしました。

アイちゃんは見た目が結構女の子っぽいイメージですけど、ミラクはメンズ服を着てもいけるし、現代っぽい感じがあっても楽しそうだなって。だから、髪型は顔周りをちょっと短くしたり、それだけだと面白くないから少し付け足したり。アイちゃんに憧れているとのことだったので、憧れを表現するためにピンクのメッシュを入れて。見た目で中身がわかりやすい子にしたいなと思って描いています。

駒屋

ミラクの成長については、自分もどう見せていくか悩んだ部分ですね。やっぱり主人公ですから、ミラクが魅力的に見えないといけないし、いろいろな苦難を乗り越えて成長していかなきゃいけない。ファーストシーズンの第10話では、ミラクがすごく落ち込んで、みんなと離れてしまいますよね。そこまでの積み上げや最後に着地するところへの流れを崩さないようにしつつ、ズガンと落ち込んでもらわなきゃいけない。ここはこだわったというか、みんなといろいろ話し合って考えたところでした。

森倉

ミラク以外の4人いっぺんに来たと記憶していますが、たしかリズから描き始めたと思います。逆に最後に考えたのがクオンですね。「ロングヘアの女の子」とのことでしたので、アイちゃんとは中身的にも絶対に被らないようにしました。

4人いっぺんに来て最初に考えたのは、「アイちゃんのDNAをどこかに入れたい」ということです。白ラインやメッシュを絶対どこかに入れる、という縛りを自分に設けて描き始めました。4人の出自はみんなバラバラなんじゃないか、といった可能性を秘めている子たちにしようとも思いました。さらに、2頭身ぐらいにギュッとされても、全員が似ていないようにしたい、色でわかるようにしたいとも考えて。「この子は色気がある」とか私の中で無理やり設定していたような気がします。

赤尾

最初がリズだったんですね。

森倉

そうです。リズは、普段あまり描く機会が少ない褐色のキャラクターにしたいと思い、やってみました。褐色の子が映えるビジュアルといいますか、小柄だけど格好かわいいみたいな、そういう自分の好みで描いた感じですね。

赤尾

私たちが原案を考えたときも、バーチャルの世界だから国籍も肌の色も髪の色も自由で、その人が好きな、テンションのあがるビジュアルだよね、って話があったんです。

森倉

どんな子にもそれぞれの良さがあるじゃないですか。目が細かろうと大きかろうと、どっちが上とかないし、その子にはその子の可愛さがある……といった感覚が私はあるので、この作品を見た人にも同じように感じて欲しいなって。普段は好みのタイプではなくても、この子はこの子で可愛い、好きになっちゃうと感じてくれたら嬉しいです。

そういう意味では、ミラク以外の4人だったら誰がリーダーとかはないですが、もし4人の真ん中にアイちゃんがいたとしたら、一番特徴がないように見えるけど、真ん中が似合いますよね。ミラクもそれと同じようにしたかったんです。一番ナチュラルだけど、主人公・真ん中が一番似合うようにするのが難しかったです。

赤尾

監督たちとシナリオの会議をしているときも、ミラクが一番地味に見えていましたよね。

駒屋

そうですね。

森倉

外見よりも頑張っているところが一番の魅力になる、やっぱりミラクは主人公タイプだなと思います。ただ、誰がリーダーはないと言いましたが、4人の誰が中心なのかという感覚はあって。それはリズなんですよね。格好いいと可愛いを兼ね備えている子ですし、それもあってたぶんリズを最初に考え始めたんだろうなって思います。

駒屋

PathTLiveではリズはファーストシーズンの終わりかけで登場してきて、割と天才みたいなポジションですから、ほかの4人とどう馴染ませたらいいのかが結構難しくて。リズというキャラクターを見せつつ、PathTLiveにも溶け込ませないといけないところは苦労しましたね。

赤尾

難しさで言えば、森倉さんが最後に考えたと話していたクオンは一番難産でした。「この子はどういうつもりでバーチャルアーティストをやっているんだろう?」という疑問がずっとあって。シナリオを作っているときも、「クオンはどういうつもりで温室にいるんだろう?」「そもそも、この温室はなんだ?」となりました(笑)。

全キャラそうですが、特にクオンはリアルとバーチャルでいろんなことが違っていて。実際の人間の感情も矛盾だらけではあると思います。でも、矛盾が多すぎて変なところで引っかかってしまわないように、しっかり整理整頓しながらやらないといけなかったのが、クオンでしたね。

駒屋

キャラクターを見せていく中でどういうお話がいいか、こういうときにこの子はどうするのか、そういったことを考えたわけですが、クオンは見た目も3パターンありますから難しかったです。

温室に関しては、もともとクオンは格好良くて周りの女の子からキャーキャー騒がれてしまうので、隠れるために誰も来ない温室によくいるようになりました。バーチャルでも、誰も入れない自分だけの空間を作って閉じこもっていたんですけど、アイちゃんの導きもあってミラクがどんどん入っていったんです。そのあたりは、赤尾さんと話しながら決めていきましたよね。

赤尾

そうですね。

駒屋

リズとクオンは登場が遅かったのもあって、ファーストシーズンは途中までミラク、ノエル、クリスの3人で進んでいきましたが、その中で物語に一番動きがあり、個人的にも思い入れが強いのはノエルですね。ノエルはバーチャルアーティスト一家ということで、家族との問題をどう描いたら彼女の魅力を出せるか、ライターの河口(友美)さんに家族構成とかも含めて何度も細かく書き直してもらいました。

クリスは淡々としているところがあるので、淡々としつつもどうやったら見ている人に可愛い、面白いと思ってもらえるか。それを考えながらやっていきましたね。

森倉

クリスは、デザインを作るときに「なんか喋らなそうだしあまりよくわからないけど魅力があるよね」といった立ち位置にしたいと思って描きました。アニメでも私が思っていたのと全然違和感がないです。

赤尾

そうですね。動きや表情で可愛く見せたいなと思ったので、匍匐前進をさせるとか、見ていて愛でられるキャラクターになるようにシナリオを作っていきましたから。それにしても、監督がノエルに思い入れがあるのは知らなくて。話を聞いてそうなんだと(笑)。

駒屋

ビジュアルはもちろん全員好きですけど、ノエルはキャラクターとしても大好きですし、こだわりというか、もっとも注文をつけたキャラクターなんです。家族との問題については、中学生や高校生ってノエルのような感じで周りが見えていないことってあるじゃないですか。家族が本当は優しい言葉をかけているのに、ちょっと勘違いしちゃっているところを上手く表現したい。それにはノエルが一番適していました。

森倉

ビジュアル的にバーチャルとの境目がないとしたら、なにに心を打たれるかな? と考えたら、結局はそういった葛藤とかだと思うんです。私自身、デザインするときに悩んでいたところでもあったので、アニメで深堀りしていただいたのがすごく嬉しくて。時を経て深みが増した感じがします。

赤尾

シナリオを考えていく中では、細かな設定を考えていなくて皆さんに突っ込まれることがあって。ノエルの話でも、こういう話を作りたいとぬるっと始めちゃって、母親の性格などはその時点では決めておらず、実はノエルの実家はこういう感じで、リビングにはトロフィーがいっぱいあって……といったことは後出しで決めて、イメージを共有していったんですよ。

BRT5とかセカンドシーズンで出てくるキャラクターたちも、本当にざっくりといつ出会ったのか、ぐらいしか決めずにシナリオを作っていったので、監督やライター陣にはめちゃくちゃなことをしていたなと反省しています。

森倉

そういうのって無意識に頭で考えながら進めると思うんですけど、言語化するタイミングってすごく難しいですよね。

赤尾

そうなんですよ。

森倉

例えば、クリスが短パンなのは無意識で描いていて、その裏にはたぶん私の妄想がかなり入っていると思うんです。でも、それを言語化するタイミングがなかったというか、そこまで私が決めちゃうのはヤバいと思って、あまり意識しないようにしていました。ストーリーを膨らませるにあたっては、それも共有できたほうが便利だったろうなと思います。

赤尾

文字資料を出せと(笑)。

森倉

たぶん、無意識でやっているから、あとから言葉にしようとしても、本人が一番わからないんですよね(笑)。

赤尾

脳内では、なんとなくこういう喋り方なんだよな、というのはあるんですけどね。ニスカとかも、私の脳内では「こういうことは言うけど、こういうことは言わない」って線引きがあるけど、資料化してないから「え? どうしてこれは言うのにこれは言わないの?」となっちゃうこともありました。

森倉

逆に、アニメで見たPathTLiveのメンバーはそんなに違和感がなくて、私の妄想とリンクした嬉しさがありましたね。ノエルとか身体的にとても恵まれているけど、こういう子に限って悩んでいることはあるよな……と思っていたので、解釈が一致しているというか、腑に落ちる感じがしました。

なんというか、嘘っぽくないんですよね。見た目的には現実にない髪の色とかになっていますけど、依頼内容に「見た目は二次元だけど、現実にいる感じにして欲しい」とあって。私からは見た目しかお渡ししていないのに、そういう苦悩があってこそだよなとか、現実にいるように感じられたのはすごく嬉しかったです。

赤尾

キャラ設定を作るときには、『とりあえず欲しかったもの』と『本当に欲しかったもの』を書く欄があったんですよ。生きている人間が持っているような、『表面的な部分』と『深層の部分』を最初から考えておこうと。物語を着地させて行く中でも、それがブレないようにキャラクターの人生を進ませていったのが良かったんだと思います。

駒屋

そうですね。

赤尾

こういう場で喋っている私と家族と喋っている私は違うじゃないですか。そういうリアルさを「絆のアリル」のバーチャルの世界とリアルの世界という2つの世界で表現するには、どういう性格付けをしたらいいのか。

ミラクのようにリアルとバーチャルがほぼほぼ一緒の子もいれば、クオンのように変わりたいって気持ちが出ている子もいる。バーチャルだったらもっとお姉さんっぽくしたいとか。夢や希望を叶えた子もいる。それにプラスして、リアルでの歴史とバーチャルでの歴史もあります。なので、1人のキャラクターに対して、すべてにおいて2つの物事を考えていきました。どうしてバーチャルではこんな感じなのか、もしかしたらリアルでは人と話すのが苦手だけど本当は人と関わりたいのかもしれない………などとみんなで相談して、固めていったんです。

森倉 すごいですね。私がデザインしたときには、性格を完全に決めて描くのは危険だと思って、ブレーキをかけていたんです。無意識で入ってはいると思いますが。でも、アニメでこんなに膨らませていただいて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。

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