第4回 絆のアリルクリエイターズインタビュー “作画編”
第4回 キャラクターの設計から彼女たちが生まれるまで(作画編)
『絆のアリル』スタッフ陣による座談会企画。第4回は、キャラクター設計からどのようにデザインや作画を起こしていったのか。具体的なポイントもあげながら語っていただいた。
<参加者>
駒屋健一郎(監督)
朝香 栞(キャラクターデザイン、総作画監督)
森田 二惟奈(キャラクターデザイン、総作画監督)
髙橋瑞紀(総作画監督)
朝香
キャラクターデザインのそれぞれの担当を説明すると、私は主要ユニットではPathTLiveとVICONIC、そのほかにキズナアイちゃん、オーリス学園長とエイダも担当しています。先に私が彼女たちのデザインを固めて、それを森田さんに反映してもらいました。
森田
私はBRT5と3DM8。ほかに話数ごとのゲストキャラクターをほぼ私が、メインキャラクターの家族は朝香さんがやっています。あと、PathTLiveの中で、唯一“まるまる”のデザインは私が1から起こしています。
髙橋
私はおふたりのキャラクターデザインが決まってから、作画の作業に入った感じですね。
朝香
その分担で、まずはPathTLiveのミラクとクオンを先にデザインして、そこで結構揉みました。2人が決まってからは比較的サクサクのイメージだったと思います。
駒屋
そうですね。キャラクター原案にはなかった男のクオンやまるまるは何パターンか出してもらいましたが、そのほかは最初に描いていただいたものが自分のイメージと近かったですし、メーカーさんの評価も基本的に問題がなくて。少し修正することはありましたが、難産ではなかったです。
朝香
例えば、「可愛い」というテーマだとしても、自分が思う可愛いと担当者が思う可愛いのベクトルが違うことってあるじゃないですか。でも、ありがたいことに今回は結構合致していて、自分が提出したデザインに対してすぐに返事がくる感じでした。
森田
私も原案があったキャラクターについては、スッといった感じです。ただ、その話数に登場するゲストキャラクターのデザインに関しては、パターン出しが課題でした。ゲストとはいえ、世に出る以上は視聴者にちょっとでも印象が残るキャラクターにしたい、手を抜きたくないって気持ちがありましたので。
朝香
モブキャラは数がめちゃくちゃ多かったですからね。
森田 そうなんです。2クールの中で結構な数のキャラクターが登場しています。楽しくやりつつもすごく勉強になりました。
朝香
全体的なデザインのポイントとしては、キャラクター原案をいただいたときに、手足がスラッとした“3D化したときにダンスが映えるようなモデル”だったんです。それをアニメとして作画する際には、描きやすさを重視して、頭身を少し下げました。それが一番のポイントですね。3Dとの差は出ちゃいますけど、割り切っていいと言われましたので、作画は作画としての可愛らしさを追求しています。
頭身を下げたとはいえ、可愛い女の子としてのシルエットはすごく気にしました。女の子としての繊細さ、華奢さ、柔らかい感じを意識しながら、PathTLiveの5人並べたときにしっくりくるように。1人だけでの可愛さもありますが、やっぱり5人並べたときに誰か浮かないか、ユニットとしてしっくりくるかも大事ですからね。「省略できるもの」「残しておくもの」を足し算引き算しながら、苦労して形にしていきました。
森田
PathTLiveのデザインが決まったら、それに合わせてほかのユニットのデザインをしていった感じですね。意識したのは、可愛らしさとともに、メンバーがみんな個性的で違ったキャラクター性を持っているので、それを“見た目で表現したい”ってことです。
朝香
そうですね。顔の印象が同じにならないように、ちょっと大袈裟に瞳の形を変えるとか、ここをもうちょっと誇張してみようとか、原案を見ながら相談を重ねていきました。輪郭やまつ毛のニュアンス、顔のパーツのバランスなどは、森倉先生の絵をたくさん見て参考にしています。『絆のアリル』に参加するより前から、森倉先生のことはすごく可愛い女の子を描かれる方という認識がありましたので、本当にたくさんの資料を参考にさせていただきました。
PathTLive
朝香
PathTLiveのメンバーについて、3形態あるクオンからお話します。女の子のアバターであるクオンは、髪のボリュームが最初の段階ではもう少しこどもっぽいボリューミーな感じでした。でも、もうちょっと大人っぽく、大人が見ても、中高生の女子が見ても可愛いと思えるデザインにして欲しいと言われて。少しボリュームを抑えて、シルエットの重さ(重心)を下の方に移動しています。
男の子の方はとにかくイケメンで、陰のある王子様系、といったオーダーがあり、修正を重ねながらデザインしました。男のクオンやまるまるがどういう風に喋り、どういう風に動くのかはこの時点ではわからなかったので、ワクワクしていたんです。そうしたら、まるまるが敵に投げられるとか結構面白い使われ方をしていて(笑)。中身は「イケメンで」とオーダーされたあの人だよな……? と思って、すごく印象深いキャラクターになりました。
森田
まるまるに関しては、土台は最初に決まったのですが、細かな部分は原案側とのやり取りを重ねてあの形に固まりました。黄緑色の服のようなものがない、白い中身だけの案もあったんですよ。簡単な形とはいえ、マスコットとしての可愛さにこだわってデザインしています。それがアニメで動き、さらにグッズ化までしていただいたのは初めての経験でしたので、とてもいい思い出になりました。お気に入りのキャラクターです。
駒屋
本当にバランス良くまとめていただきました。まるまるは名前が先に決まっていたので、名前に合う可愛いキャラクターになったと思います。
朝香
クリスは表情の出し方が難しかったです。全身や正面の顔はすぐに決まったのですが、アニメではキャラごとに「ここまでの表情なら、やらせて大丈夫です」といったガイドラインになる、“表情集”を作る作業があるんです。まだ最後まで物語が固まっていない段階でしたので、どこまでやっていいのか結構やり取りしましたね。
駒屋
設定上は、満面の笑みといいますか、MAXで笑ったときの絵も必要ですからね。そういった表情も描いてもらいました。
朝香
それで言うと、ノエルは“上品だけどちょっとツンデレ気質で、お姉ちゃんっぽくて、でも可愛いところもあるキャラ”ですよね。なので、表情集では「おほほほ」みたいな上品な笑顔よりも、高校生が年相応にはしゃいでいる感じで好き勝手に描いてみたらOKをもらえました。家族絡みのこともあって、どうしても高飛車に見られがちなキャラですけど、私としては普通の女の子として描きたかったんです。
駒屋 ノエルは割と感情的なキャラで、ファーストシーズンの終盤ではミラクのために泣くこともありますから、そのぐらいがちょうど良かったんですよね。
朝香
ありがとうございます。クオンもちょっと男の子っぽい笑い方を表情集に入れたら、いいですねと言っていただきました。リズは頭脳派で、クールで、なんでも知っていて、ちょっとパーフェクト人間みたいなイメージがあります。でも、白い歯を見せて笑うような、ちょっとやんちゃで幼い一面がみえる砕けた笑顔も忍ばせて提出したら、これも結構いいと言っていただきました。オーダーに沿って描くのはもちろんですけど、こちらから提案してものを採用してもらうこともあったのが嬉しかったです。
そういう意味では、ミラクは私がいままでキャラクターデザインさせていただいた中で、一番“どんな顔を描いてもいい”タイプのキャラクターでした。なので、表情集には「ギャグ顔の参考」も描いたんですよ。本当に女の子でこんな顔を描いたことない、ってところまでやって良かったので、楽しかったですし、より愛着が湧きました。
駒屋
ミラクは最初そこまで細かなことは話さずに、朝香さんからあがってきたものに対して「もうちょっとこんな感じ」とメーカーのチェックが入る感じでしたね。それに、お腹が見えていたので、そこをどうするかは気を使ってデザインしています。このような感じで、どのキャラクターもみんなで話し合いながら作り上げました。
BRT5、VICONIC、3DM8
森田
BRT5は原案を見たときから、個人的にめちゃくちゃ好みのラインナップが揃っているユニットでした。なので、アニメ用にデザインを起こす作業も楽しくやらせていただきました。意識したのは、バラバラな個性の5人を、とにかくパッと見で差別化したい、ということです。
中でも印象的だったのはニスカですね。ニスカはボーイッシュで王子様のような、格好いい女性キャラ。私の中では、宝塚や男装の麗人のようなイメージ。女性であることを前面には出さず、かつイケメン、みたいないい塩梅になるようにこだわりました。具体的には、まつ毛やリップの感じですね。原案というかCGのニスカはリップが最初なかったのですが、「女性らしさを表現するために薄くはつけたいです」と意見を出させていただきました。ほかのキャラクターも含め、目力でも個性を出して、アニメ用にCGとはまた違った個性で差別化しています。
朝香
実は最初、VICONICも森田さんの担当だったんです。でも、キャラクター原案を見たら、VICONICにすごくキュンときてしまって(笑)。担当してもいいですか? と相談して、私がやることになりました。一目惚れしたユニットだったので気合が入りましたし、担当できて嬉しかったです。
森田
そうでしたね。そして、3DM8はどうやって差別化しようかいろいろ考えました。BRT5は個性がわかりやすかったですけど、3DM8はみんなクールな雰囲気というか、差別化するのが難しく感じたんです。原案がある以上、服装や髪型は固まっていますので、そうなると顔で差別化しないといけない。なので、目ですね。目で描き分けを意識することに落ち着きました。
よく見てもらうとわかりますが、3DM8の3人はみんな目の描き方を変えているんです。ゾーイは切れ長でぱっちりしている、ソフィアはぱっちり開いているけどクールに見えるように、ヒメナは三白眼とまではいかないですが瞳をほかの2人より小さくして、可愛くみせるために下まつ毛を長めに。そうやって原案の可愛らしさや格好良さは出しつつ、いい具合に差別化ができたかなと思っています。
朝香
ソフィアはほかの2人と唇も違いますよね?
森田
はい。ソフィアはセクシーさもありますから、唇の線をちょっと変えることで、大人のお姉さんっぽさを出しています。
朝香
瞳に関しては、キャラクターの顔が大きく映るカットや大切なシーン、盛り上がるシーンでは特別な瞳の見せ方をしています。瞳の描き込みの量を増やしてディテールアップし、さらに瞳の印象を強くしたらどうか、という提案を森田さんにいただいたので、その設定を追加したんです。
ある程度設定が固まった段階で急遽追加したのですが、撮影の皆さんに専用の処理をかけていただき、より目力のある、瞳に命が宿った表現にすることができました。描くこと自体はそれほど手間ではない工程でしたけど、それによって映像のクオリティがすごく上がったように見えましたし、素敵な可愛さが新たに表現できたと思って、森田さんには感謝しています。私はちょっと大雑把な性格をしていますので、そういう細々としたところを見落としがちなんですよ(笑)。
作画のこだわりと印象的なシーン
髙橋
作画に関しては、なるべくキャラクターデザインから外れないことを意識して描いていきました。ただ、『絆のアリル』は原作のないオリジナル作品ですから、手探りで進めたといいますか、最初はビクビクしながら描いていたんです。でも、褒めていただいたことで、途中からこれでいいんだと思えて、よりしっかり取り組めました。
思い出に残っているオーダーをあげるなら、第6話ですね。ミラクとノエルがいろいろあった話数ですけど、「ミラクを天使っぽく描いて欲しい」とのオーダーがあったんです。
森田
そこの2人が夕焼けの中でやり取りするシーンは、作画的にも本当に綺麗で、私も印象に残りましたね。私の家族にも作品を布教しているのですが、家族も第6話はめちゃくちゃ絵が綺麗で本当にいい回だったと言っていたんですよ。
朝香
髪の揺らし方もすごく綺麗ですよね。私もこういうことを取り入れたら女の子の柔らかい雰囲気や可愛らしさが表現できるんだろうなって、勉強になりました。
駒屋
髙橋さんが担当したところでいうと、第4話でクリスがアップになって髪がばっと揺れるところの表情もすごく良かったです。
クリスって仏頂面とまでは言わないですが、表情をつけるのが難しくて、前半は特にあまり表情が出ないキャラですからね。第4話は割と表情が出るようになってきて……というタイミングだったので、そこでクリスをとても魅力的に描いていただいて、本当にありがたかったです。
髙橋
ありがとうございます。確かに、クリスは表情があまりなくて難しかったですが、設定画にいろいろ注釈を書いていただいていたんですよ。「これは一番オーバーなときのリアクションです」とか。あまり表情がないキャラ、というのは制作スタッフみんなの共通認識でしたので、いろいろ確認をして進めていました。
駒屋
「こんなに笑っちゃって大丈夫ですか?」とかね。
朝香
クリスでいえば、第2話の“ほっぺにチュー”も良かったですね。作画やコンテを見て、うおっ!ってすごく目を惹かれました。近づくクリスにドキッとしましたし、その後のミラクもすごく可愛くて。ちょっとデフォルメチックな顔も可愛く描いてくださいましたよね。
オリジナル作品ですから、視聴者も『絆のアリル』はどういう系のアニメなのか最初はわからなかったと思うんです。でも、第2話で「こういうのもありなのか」と感じたでしょうし、そういう意味でも好きなシーンです。
森田
コミカルなシーンでは、第4話でミラクが普通なことに悩んで試行錯誤した配信をするところも印象的でした。いろいろな格好をしたり、でっかい「普通」って文字に潰されたり、コミカルに動く作画が本当に可愛くて。作画目線でも、可愛い女の子の動かし方でも勉強になりました。動きで可愛いって思わせるのはアニメーションならではですよね。
朝香
個人的には第7話も印象に残っています。第7話はバーチャルな世界でありつつゲームの世界に入るお話でしたから、ゲームの衣装を好き勝手描かせていただき、色彩設計さんが綺麗に色を付けてくださいました。PathTLiveはずっと同じ衣装を着ていましたから、味変みたいで新鮮な気持ちでしたね。まるまるもロビン・フッドみたいで可愛いかったです。
森田
そうですね。ファーストシーズンはPathTLiveがメインでしたから、たまにこういう回で色合いが変わると、描いている側としても楽しかったです。
セカンドシーズンだと、先ほど話したゾーイとサラの幼馴染のエピソードが印象に残っています。2人の幼少期のデザインも私が担当していたので、幼少期のゾーイとサラをいろいろ想像しながら描くのが楽しくて。こういう女の子と女の子の関係性はすごく好きなので、作画の面でも物語としても好きな回なんですよ。
朝香
セカンドシーズンは、各ユニットにスポットライトのあたる話数が用意されているのもいいですよね。
駒屋
ユニットを超えた個々の関わりもありますからね。そのあたりの掘り下げはできたと思います。
髙橋
各ユニットのキャラクターデザインは最初の頃から見せていただいていたので、セカンドシーズンでみんなが出てきて、作画でもいろいろなキャラクターを描けて楽しかったです。その中でも、個人的に特に印象に残っているのは第22話で、ソフィアが増殖するシーンですね。とにかくソフィアをたくさん描きました(笑)。
森田
あのシーンは面白かったですよね。終盤だと、最終話で本当にちょっとだけですがBRT5の新しい衣装が出てきますので、今後また描く機会があればいいなと思っています。
朝香
私もユニットの共通衣装を2パターン目、3パターン目、4パターン目と描けたら嬉しいですね。そのぐらい、キャラクターやユニットに愛着が湧きすぎています。
髙橋
ライブ衣装は基本的に3Dですけど、立って喋るときだけは作画で描きますからね。最初にデザインをいただいたときは量がすごく多くて大変だと思いましたけど、やってみたら楽しかったので、ライブの作画とかもできたら嬉しいです。
自分が描いた中では、セアの造形が好きなんですよ。X(旧Twitter)のカウントダウンイラストでこっそり描いたら、皆さんから「急にセアが来た!」と言われました(笑)。
朝香
私はリズを描くのが純粋に楽しかったですね。リズの目はまつ毛がバッサバサなので、ストレス発散になるぐらいの楽しさでした。
駒屋
リズは、第9話のラストでミラクに「友達になろう」と言うときの、あの笑顔がすごく良かったですね。それも含めて、どの話数もどのカットも皆さんがこだわりを持って描いてくれたのをすごく感じています。作品に関わったすべての人の思いが画面にしっかり出ていると思いますので、デザインや作画面でも隅々まで見ていただけたら嬉しいです。